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■1ネット選挙運動と落選運動について〜公職選挙法のお話〜[政治][選挙] このエントリーをはてなブックマークに追加

佐賀県では、明後日(25日)に 佐賀県知事選挙の告示[https://www.pref.saga.lg.jp/web/kensei/sen-senkyo/_85414/_85509.html] が行われます。この日から選挙運動期間が開始される訳ですが、この選挙に関わることをネットで情報発信しようとされる方が、知っておくと良いと思う事をまとめてみます。やや、長文になってしまいましたけれど、大事なことばかりだと思います。
本当はもっと早くまとめておけば良かったと思いました。役に立ちそうな方にお知らせ頂ければ幸いです。

結論めいたことは、

から始まる一連のツイートにまとめました。簡単にまとめを読みたい方はそちらをどうぞ。
以下は大前提からの話になりますから長いです。読み物としてお読み頂く方が良いかも知れません。


政治活動を行うことについては、今の我が国の憲法において、はっきりと自由が保障されています。

第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。

民主主義が正しく機能するためには、政治活動は不可欠なものです。政治に対する考えを自由に述べ、それを広め、それを入手することができる自由が確保されることが、民主主義を正しく機能させるために必要であることは、先の大戦の際に、どの様に政治的な言論が制限されてきたかを考えて頂いても、理解頂けるでしょう。二十一条は、この自由を保障することで民主主義を支える大事な条文です。


一方、 公職選挙法[http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html] では、選挙に関わる様々なことが規制されています。 文書の配布にも制限がありますし、集会や演説についても規制が行われています。憲法二十一条では自由が保障されているはずの「自由」に制限が加えられています。これはなぜなのでしょうか。
公職選挙法第一条[http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html#1000000000000000000000000000000000000000000000000100000000000000000000000000000] に、その答えがあります。

(この法律の目的)
第一条  この法律は、日本国憲法 の精神に則り、衆議院議員、参議院議員並びに地方公共団体の議会の議員及び長を公選する選挙制度を確立し、 その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期することを目的とする。

目的とするところは先に憲法について説明したのと同じく、「民主政治の健全な発達を期すること」ですが、「その選挙が選挙人の自由に表明せる意思によつて公明且つ適正に行われることを確保」するための法律であると言っています。
公職選挙法と憲法の関係を扱った判例は数多くありますから、この中から関係を整理しますと、概ね以下の様な問題に対処するために、この法律があることが分かります。
まず、 お金の力で選挙を戦う こと。もし、これが許されれば、お金がある人は選挙で有利になります。お金が無い人の意思は尊重されなくなるということです。これは、憲法の精神に反します。このため、買収が禁止されていることをはじめとして、選挙に使えるお金の多寡で左右されることになる、ビラやポスター等の文書図画や、選挙運動を行える期間には制限が設けられています。
地位を利用して選挙を戦う こと。裁判官や警察官といった公平性を要求される立場にある特定公務員は選挙運動そのものが禁止されていますし、一般の公務員や教育者も、その地位を利用して選挙運動をすることはできません。
いずれも、それを許してしまったら、「民主政治の健全な発達」を阻害することが明らかなことです。お金で選挙に勝てたら。地位があったらその地位を利用して選挙に勝てたら。どちらも主権在民とは離れた社会を招くでしょう。


「選挙運動」という言葉が出てきました。広い意味では、選挙運動も政治活動の一部なのですが、 特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的とする行為 を「選挙運動」と位置づけ、公職選挙法では「選挙運動」に焦点を当てて、お金や地位によって、選挙が歪められない様に規制を行うという仕組みになっています。
逆に 「選挙運動」でなければ、憲法の原則に立ち返って、「政治活動」は自由に行える という構造になっているのです。
「政治活動」を名目にした、事実上の「選挙運動」が行われることがあるのは現実です。しかし、これを厳しく見過ぎて、 政治活動そのものを取り締まる様なことになれば、民主主義が否定されます から、取り締まりの見極めが難しいというのが実情の様です。
例えば、いずれ選挙に立とうとしている人が、自らの思いを訴えて、支援をお願いして回るということは、当然に許されています。これが許されなければ、市井の誰かが選挙に出ることは不可能に近くなります。
自らの政治に関する信念を、自分のウェブページに公開して応援を求めることも、許されています。
しかし、それを印刷してポスティングしてもらったとなるとアウトです。どこに境界があるかと言えば、 「お金や地位」で選挙を戦ってはいけない ということです。印刷にもポスティングにもお金が掛かります。お金がある人、地位がある人だけが有利にならない様、公正な選挙ができる様に、公職選挙法は作られています。


選挙運動がどの様なものかを見てきました。 「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的とする行為」が選挙運動 であるということでした。
では、 特定の候補者の落選を目的とする行為 は、選挙運動にあたるのでしょうか。結論から言いますと、これは 選挙運動にあたらない とされています。

当選目的がなく、単に特定の候補者の落選のみを図る行為である場合には、選挙運動には 当たらないと解されている(大判昭5.9.23刑集9・678等)。

但し、例えば、事実上の一騎打ちの様な選挙で、対立候補の当選を目的として、対立候補の落選を図る運動は選挙運動であるとされています。
今回の佐賀県知事選挙においては、複数の候補の出馬が予定されており、この様な状況には当たらないと考えられます *1


改正公職選挙法では、ウェブページやSNS上で「選挙運動」を行うことができる様になりました(電子メールは除きます)。告示日からは投票の前日までは、特定の候補への投票を促す活動もできるということです。
但し、公職選挙法で選挙運動が認められていない未成年者等は、ネット上でも選挙運動を行うことはできません。 また、選挙運動を行うことができるのは、その選挙の有権者に限られません。 つまり未成年者や特定公務員など、従来の公職選挙法で選挙運動が禁止されていない人であれば、 私たち誰もが、選挙運動をすることが認められているのです。 詳しくは、 ガイドライン[http://www.soumu.go.jp/main_content/000222706.pdf]本改正が施行されると、選挙運動において、具体的にどのような手段を使用することができるようになるか。[http://www.soumu.go.jp/main_content/000222706.pdf#page=12] の回答と次ページの表をご確認ください。
なお、この ガイドライン[http://www.soumu.go.jp/main_content/000222706.pdf] と、 インターネット選挙運動の解禁に関する情報[http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/naruhodo/naruhodo10.html] のページに掲げられている資料は、 選挙に関わる情報を積極的に発信して行こうとする方は、必ず目を通しておくべき資料 だと思います。
ウェブによる選挙運動は誰もが自由にできますが、メールによる選挙運動が行えるのは候補者に限られています。では、Twitterはどうなのか、Facebookはどうなのか。答えはウェブ同様、「誰もができる」ですが、そういったQ&Aがまとめられています。


最後になります。選挙区外の人が、ある地域の選挙に関わることについて。
まず、公職選挙法はそれを禁止していません。様々な団体が、日本全国様々な地域の選挙に関与し、政治を通じて、自分たちの団体の影響力を強くしようとしている現実があります。中には、その団体や構成員の利益を目的にしたものもあるでしょう。
その様な団体による影響力の行使が許されて、個人の関与が許されないはずはありません。 この国で行われている政治に関心を持ち、活動をする自由があることは、最初に述べた、第二十一条で保障をされています。
総理をはじめとする大臣、あるいは国会議員に問題があったら、批判を受けるべきですし、自分の選挙区でなくとも、落選すべきだと主張することができます。選挙区の人にしか評価が許されないということはないはずですし、民主主義の成立のために必要だと考えます。
県においても市町村においても、この国全体に何らかの形で影響を及ぼす以上、公選を受ける立場なのですから、自由に議論され評価されることは、民主主義の成立のために必要だと考えます。


最初に書いた大前提に戻ります。なぜ、憲法第二十一条があって、政治活動の自由が保障されているのでしょうか。政治活動を行う自由が保障されることが民主主義の実現に不可欠だからです。
しかし、政治活動を行う人がいなければ、この憲法の精神は活かされません。 さらに、政治活動を行う人々は、既得権益や離れ、利害から離れた自由な立場にいる一人一人であることが望ましいのです。権益や利害では無く、純粋に政治のあり方を考えて政治運動を行う人が増えることによって、民主主義は成長するはずです。
改正公職選挙法による、ネット選挙運動の解禁は、ともすれば選挙シーズンになると、選挙運動では無い、政治的な発言でさえも自粛しがちだった状況を変化させ、選挙期間中にも自由に政治的な発言ができる様になったという効果もあったと思います。
私たちは今、ネットが政治活動の舞台となる時代の端緒を開きつつあるのかも知れません。

もっと学びたい方へ:

もっと掘り下げて学びたい方は、まずは上で掲げた、 改正公職選挙法(インターネット選挙運動解禁)ガイドライン[http://www.soumu.go.jp/main_content/000222706.pdf#page=37] をじっくり読むのが良いと思います。
ネット選挙に限らず、公職選挙法の判断について確認したい方は、以下の2冊が拠り所としてお勧めできる本です。
地方選挙の手引[http://www.amazon.co.jp/%E5%9C%B0%E6%96%B9%E9%81%B8%E6%8C%99%E3%81%AE%E6%89%8B%E5%BC%95-%E5%B9%B3%E6%88%9025%E5%B9%B4-%E9%81%B8%E6%8C%99%E5%88%B6%E5%BA%A6%E7%A0%94%E7%A9%B6%E4%BC%9A/dp/4324096686%3FSubscriptionId%3DAKIAIYKMKBZLJ3Y55SZA%26tag%3Dkeisdiary-22%26linkCode%3Dxm2%26camp%3D2025%26creative%3D165953%26creativeASIN%3D4324096686] については、各地の選挙管理委員会で文字通り、手引として使われている本ですから、選管がどう判断するかについては、この本を調べれば、ほぼ判断が付くでしょう。
さらに、判例を踏まえて個別の事例を検討されたい方は、やや重い本になりますが、 選挙関係実例判例集[http://www.amazon.co.jp/%E9%81%B8%E6%8C%99%E9%96%A2%E4%BF%82%E5%AE%9F%E4%BE%8B%E5%88%A4%E4%BE%8B%E9%9B%86-%E9%81%B8%E6%8C%99%E5%88%B6%E5%BA%A6%E7%A0%94%E7%A9%B6%E4%BC%9A/dp/4324070857%3FSubscriptionId%3DAKIAIYKMKBZLJ3Y55SZA%26tag%3Dkeisdiary-22%26linkCode%3Dxm2%26camp%3D2025%26creative%3D165953%26creativeASIN%3D4324070857] を持っていれば、判例にあたることができると思います。

*1: [2014-12-24追記] 落選運動を行う場合は、対立候補の当選を目的としているとの誤解を受けない様に注意をした方が有利な場合が多い様に思います(選挙運動ということになれば、公職選挙法上の制限を受けます)。ただ、明らかにある陣営の関係者等と言う場合でない限り、内心の問題ではありますが。

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